お引渡しのときに、24時間換気のスイッチを指して「これは切らないでくださいね」とお伝えしています。ほとんどの方が「わかりました」とおっしゃいます。それでも、数か月後にお部屋へうかがうと止まっていることがあります。理由はだいたい同じで、「音が気になった」「電気代がもったいないと思った」「冬に寒かった」。どれも自然な感覚だと思います。
ただ、この設備は住む人の好みで付けたものではなく、法律で設置が求められているものです。そして止めたときの影響は、空気の悪さよりも先に、結露とカビという形で目に見えてきます。ここでは換気設備の仕組みと、賃貸で暮らす側の使い方を、内見のときに見るべき点まで含めて整理します。
- 2003年7月1日以降に着工した住宅は、居室の空気が1時間に0.5回(=約2時間で1回)入れ替わる換気設備の設置が義務。
- 賃貸で多いのは第三種換気(排気だけ機械、給気は壁の給気口から自然に入る方式)。
- この方式は給気口が開いていて初めて成立する。閉じると玄関ドアが重くなり、レンジフードの効きが落ちる。
- エアコンにも空気清浄機にも、外の空気と入れ替える働きは基本的にない。
- 電気代は月100〜500円程度。止めて結露・カビを招く方が高くつく。
- 結露を知りながら放置してできたカビは、退去時に借主負担と判断され得る。
- 内見では、給気口の有無と位置、換気扇のスイッチ、窓枠やクローゼット内のカビ跡を見る。
換気が法律で決められている理由
建材や家具から出る化学物質で体調を崩す、いわゆるシックハウス症候群が社会問題になったことを受けて、建築基準法にシックハウス対策の規定が加わりました。国土交通省の資料によれば、施行は平成15年(2003年)7月1日で、それ以降に着工された建築物が対象です。内容は大きく三つで、クロルピリホスの使用禁止、ホルムアルデヒドを発散する建材の使用制限、そして居室を有する建築物への機械換気設備の設置義務です。
換気量については建築基準法施行令で、住宅の居室は1時間あたり0.5回(住宅以外の居室は0.3回)以上の換気回数が求められています。0.5回というのは、1時間で部屋の空気の半分が入れ替わる能力という意味で、計算上は約2時間で室内の空気がひととおり入れ替わることになります。24時間換気と呼ばれるのは、この能力を常時運転で満たす前提だからです。運転を止めれば、設備があっても基準は満たされません。
背景には、住宅の性能が上がったこと自体があります。断熱性と気密性が高い建物は冷暖房が効く一方、隙間から自然に入れ替わる空気が減ります。昔の木造住宅は放っておいても空気が動いていましたが、いまの住宅は意図的に空気の通り道をつくらないと入れ替わらない構造になっています。換気設備は、その通り道を確保するための装置です。
換気方式は4タイプ。賃貸で多いのは第三種
換気は「給気(外の空気を入れる)」と「排気(室内の空気を出す)」の組み合わせで分類されます。どちらを機械で行うかによって、第一種・第二種・第三種に分かれ、機械を使わないものが自然換気です。
| 方式 | 給気/排気 | 特徴と使われ方 |
|---|---|---|
| 第一種換気 | 機械/機械 | 計画どおりに空気を動かせる。熱交換型を組み合わせれば、外気の温度差をやわらげて取り込める。設備費・電気代は高め。近年の分譲マンションや高性能な賃貸で採用 |
| 第二種換気 | 機械/自然 | 室内を正圧に保つ方式。手術室やクリーンルーム向け。住宅では壁の中で結露が起きやすく、ほぼ採用されない |
| 第三種換気 | 自然/機械 | 浴室・トイレ・キッチンの換気扇で排気し、居室の給気口から自然に空気が入る。設備費・電気代が安く、賃貸でもっとも一般的 |
| 自然換気 | 自然/自然 | 窓やドアの開閉による換気。天候と風向きに左右され、計画的な換気にはならない |
賃貸のお部屋でよく見かけるのは第三種です。浴室や洗面所の換気扇が弱い風量で回り続け、その分だけ各居室の壁や窓の上に付いた給気口から、外の空気が静かに入ってくる。この「入口」と「出口」がセットで働いて、初めて空気が動きます。
第一種を採用した物件では、給気にもファンとフィルターが入ります。花粉やほこりを取ってから室内へ入れられること、熱交換型なら冬の給気が冷たくなりにくいことが利点です。内見で「給気側にもフィルターが入っているか」を見ると、その建物がどちらの考え方で造られているかの見当がつきます。
エアコンも空気清浄機も、換気ではありません
ここは誤解の多いところです。一般的な家庭用エアコンは、室内の空気を吸い込み、温度を変えて同じ部屋へ戻す機器です。外の空気は取り込みません。「換気機能付き」をうたう機種もありますが、風量は換気設備ほど大きくないのが通常です。
空気清浄機も同じで、室内の空気を循環させてフィルターを通す機器です。ほこりや花粉を取る役目は果たしますが、二酸化炭素や水蒸気、調理や生活で出た臭気を屋外へ出す働きはありません。どちらも換気の代わりにはならず、換気と併用するものと考えていただくのが正確です。
スイッチを切ると、順番に起こること
止めたその日に部屋が悪くなるわけではありません。時間差で、次のような形で表れてきます。
- 湿気がたまる:人の呼吸、入浴、調理、洗濯物の室内干しで、住まいの中では毎日かなりの量の水蒸気が発生します。出口がなければ室内にとどまります。
- 結露が増える:冬は外気で冷えた窓ガラスやサッシ、北側の壁面で水滴になります。もともと結露しやすい単板ガラスやアルミサッシの部屋では顕著です。
- カビが出る:窓枠のゴムパッキン、家具の裏、クローゼットや押し入れの奥など、空気が動かない場所から黒い点が出てきます。
- 臭いが残る:調理やタバコ、ペットの臭いが抜けず、壁紙に染みつきます。
- 排水口から臭いが上がる:長期間水を流さない排水口では封水(トラップの水)が蒸発し、下水の臭いが室内へ入ることがあります。
もう一つ、換気扇は回したまま給気口だけを閉じてしまうケースも同じくらいよく見ます。この状態は排気だけが続くため室内が負圧になり、次のような症状が出ます。
- 玄関ドアが重くなる、開けた瞬間に強い風が吹き込む
- ドアの隙間や郵便受けから、ヒューという風切り音が鳴る
- レンジフードを強にしても煙が吸い込まれず、キッチンに広がる
- 共用廊下やパイプスペース側から、他のお部屋の生活臭・タバコ臭が入り込む
症状だけ見ると建物の不具合に思えますが、原因が給気口だったということは珍しくありません。「最近ドアが重い」と感じたら、まず居室の給気口が開いているかを確認してみてください。
電気代は月100〜500円ほど
止めたくなる理由の上位が電気代です。実際の数字で見てみます。常時運転する換気ファンの消費電力は、住戸の設備によって幅がありますが、おおむね数ワットから20ワット程度です。
| 消費電力 | 1か月の使用量(24時間×30日) | 電気代の目安(31円/kWh) |
|---|---|---|
| 3W | 約2.2kWh | 約67円 |
| 8W | 約5.8kWh | 約180円 |
| 20W | 約14.4kWh | 約450円 |
一方、結露を放置してカビが広がった場合、退去時にクロスの張り替えやカビ取りの費用が発生することがあります。範囲によっては数万円単位です。月に数百円の運転費と比べたとき、どちらが得かははっきりしていると思います。
結露を放置すると、退去費用の話になります
ここは賃貸に住む方にとってもっとも実害のある部分ですので、少し丁寧に書きます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、結露が発生していることを知りながら手入れをせずに放置し、壁等を腐食させた場合は、借主の善管注意義務違反(通常の使い方を超えた損耗)として借主負担になり得る、と整理されています。
反対に、建物の構造上の問題によって生じた結露は、貸主側で対応すべきものとされています。つまり、争点になるのは「知っていたのに放置したかどうか」です。実務上の備えは次の三つに集約されます。
- 換気を止めない。給気口も閉め切らない。
- 結露に気づいたら拭き取る。家具は壁から数センチ離して空気を通す。
- それでも結露が続く、カビが再発するときは、早い段階で管理会社へ連絡し、日付の残る形(メールやアプリ)で伝えておく。
最後の一つは特に大切です。退去の立会いで「入居中に伝えていました」と言えるかどうかで、話の進み方が変わります。電話だけで済ませず、あとから見返せる記録を残しておいてください。原状回復の考え方については「原状回復費用でトラブルを避けるには」でも詳しく書いています。
給気口とフィルターの手入れ
給気口の内側には、たいていフィルターが入っています。ここは外気を直接受ける場所ですので、幹線道路沿いや上層階の風の強い住戸では、思っている以上に早く黒くなります。目詰まりすると入ってくる空気の量が落ち、換気設備としての性能が下がります。
- 点検の目安:2〜3か月に一度は外して確認する。汚れやすい環境なら月に一度。
- 掃除の仕方:掃除機でほこりを吸う。水洗いできる材質なら洗って、完全に乾かしてから戻す。
- 交換:破れたり変形したりした場合は、管理会社に型番を確認して交換する(消耗品として借主負担になることが多い部分です)。
- 浴室・トイレの換気扇:カバーを外してほこりを取る。浴室を乾かす目的で回すときは、浴室のドアを閉め、ドア下のガラリ(通気口)から空気が入る状態にしておく方が効率よく乾きます。
入居直後にどこを見ておくかについては、「入居直後に確認すべき室内チェックポイント」もあわせてご覧ください。
2003年6月以前の建物に住む場合
規制は着工日が基準ですので、それ以前に建てられた物件には24時間換気の設備がないことがあります。築年数の古いお部屋を検討されている場合は、この点を前提に置いてください。設備がない分、窓を開ける換気で補うことになります。
厚生労働省が示している換気の方法では、機械換気設備がない場所について、1時間に2回以上(30分に1回以上、数分間程度)、2方向の窓を全開にすることが目安として挙げられています。実践するときのコツは次のとおりです。
- 対角線上の2か所を開ける。1か所しか窓がない部屋は、部屋のドアと廊下側の窓を組み合わせる。
- 風が弱い日は、片方の窓に向けて扇風機やサーキュレーターを外向きに回すと空気が動く。
- 冬は短時間に区切る。長く開けるより、短く数回の方が室温を落とさずに済む。
- 入浴後は浴室のドアを閉めて換気扇を回し、湿気を居室へ広げない。
- 洗濯物の室内干しは、換気扇のある浴室か、除湿機と組み合わせる。
私、鳥越が退去の立会いに立つとき、カビの跡が出るのはたいてい同じ場所です。北側の壁で家具の裏、そしてクローゼットの奥。共通しているのは、空気が動いていないことです。特別なことをしていたわけではなく、換気を止めて、家具を壁にぴったり付けていた、それだけで数年後に差が出ます。逆に、換気を回したまま、家具を数センチ離していたお部屋は、同じ間取り・同じ築年でもきれいなままです。設備の性能差より、日々の使い方の差の方が大きいというのが、現場で見てきた実感です。
内見でのチェックリスト
換気は入居後の話に見えますが、実は内見の段階で判断材料が揃います。次の点を見ておくと、住み始めてからの手間が変わります。
- 各居室の壁の上部か窓まわりに、給気口があるか。位置はベッドやソファを置く場所の真上ではないか
- 給気口の内側のフィルターが真っ黒になっていないか(管理状態が見えます)
- 浴室・洗面・トイレの換気扇に、24時間換気(常時運転)のスイッチや表示があるか
- スイッチに「切らないでください」の表示があるか
- キッチンのレンジフードと連動する給気口があるか、または同時給排型か
- 窓がペアガラス(複層ガラス)か単板ガラスか。サッシの材質はどうか
- 窓枠のゴムパッキン、サッシの下枠に黒い点や拭き跡がないか
- クローゼット・押し入れの奥、洗面台の下を開けて、臭いとカビ跡を確かめたか
- 北側の壁面と、その前に家具を置く前提で空間の余裕があるか
- 給気口の外側が幹線道路や隣家の室外機に面していないか(音と臭いの経路になります)
- 建物の築年(2003年7月以降の着工かどうか)
内見時にどこまで見るかについては、「内見でチェックすべきポイント」も参考にしていただければと思います。
よくある質問
24時間換気のスイッチは切ってもいいですか?
常時運転する前提の設備ですので、切らずに使うことをおすすめします。2003年7月1日以降に着工した住宅では、居室の空気が1時間に0.5回入れ替わる能力の換気設備を設けることが建築基準法で求められており、その基準は運転していて初めて満たされます。止めると湿気と生活臭が室内にとどまり、結露やカビの原因になります。旅行などで長期間留守にするときも、運転したままにしておく方が室内の状態は保たれます。
24時間換気の電気代はどれくらいですか?
住戸によりますが、常時運転時の消費電力はおおむね数ワットから20ワット程度です。仮に8ワットなら1か月あたり約5.8kWh、電力量単価31円で計算すると月180円ほど。20ワットでも月450円前後の水準です。止めて結露からカビが広がった場合の原状回復費用と比べれば、動かし続ける方が結果的に安く収まることが多いと考えています。
給気口から冷たい風が入ってきます。閉じてもいいですか?
全開のまま我慢する必要はありませんが、完全に閉め切るのは避けてください。多くの給気口は開度を調整できますので、まず絞る、次に風が直接当たらない位置へ家具やベッドの向きを変える、といった順で調整します。給気口を閉じたまま換気扇だけが回ると室内が負圧になり、玄関ドアが重くなる、隙間から風切り音が鳴る、レンジフードの排気が弱くなる、といった症状が出ます。寒さが強い場合は、フィルターの目詰まりで風速が上がっていないかも確認してみてください。
エアコンの換気機能や空気清浄機では代わりになりませんか?
一般的な家庭用エアコンは室内の空気を吸って温度を変えて戻す機器で、外の空気は取り込みません。一部に換気機能を備えた機種もありますが、風量は換気設備ほど大きくないのが通常です。空気清浄機も室内の空気を循環させてフィルターを通す機器で、二酸化炭素や湿気を屋外へ出す働きはありません。どちらも換気の代わりにはならず、併用するものとお考えください。
結露でカビが生えた場合、退去時の費用は借主負担になりますか?
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、結露が発生したことを知りながら手入れをせず放置して壁などを腐食させた場合は、借主の善管注意義務違反として借主負担になり得るとされています。一方で、建物の構造上の問題による結露は貸主側の負担と整理されています。日頃から換気を続け、気づいた時点で管理会社へ連絡した記録を残しておくことが、実務上いちばんの備えになります。
公式情報
- 国土交通省:改正建築基準法(シックハウス対策)に係る技術的助言
- e-Gov法令検索:建築基準法(第28条の2 石綿その他の物質の飛散又は発散に対する衛生上の措置)
- 国土交通省:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
- 厚生労働省:換気の悪い密閉空間を改善するための換気の方法
まとめ
換気設備は、住まいの中でもっとも地味で、もっとも止められやすい設備だと思います。動いていても何も起きず、止めても翌日は何も変わらない。差が出るのは、半年後の窓際と、数年後の壁の裏です。
やることは多くありません。スイッチを切らない。給気口を閉め切らない。フィルターを数か月に一度見る。家具を壁から少し離す。結露に気づいたら拭いて、続くようなら記録の残る形で管理会社へ伝える。この五つで、日々の空気の質も、退去時の精算も、だいぶ違ってきます。
お部屋探しの段階でも、給気口の位置や窓の仕様は確認できます。内見にご一緒するときは、こうした設備面も一緒に見ながらご説明していますので、気になる点があれば遠慮なくお申しつけください。
本記事は2026年9月10日時点の一般的な解説です。設備の仕様・消費電力は物件により異なり、電気代は電力量単価の前提を置いた概算です。原状回復の負担区分は個別の契約内容と実際の状況によって判断が変わりますので、具体的なご相談は管理会社・貸主または専門家へご確認ください。