不動産を売って利益が出たとき、その利益にかかる税率は「所有期間」によって大きく変わります。5年以下なら約40%、5年を超えれば約20%というところまではよく知られていますが、マイホームに限っては、10年を超えて所有していた場合にさらに低い14.21%の税率が適用される制度があります。租税特別措置法31条の3、いわゆる「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」です。数え方には独特のクセがあり、6,000万円というラインの意味も誤解されがちです。条文に沿って整理します。
- 譲渡所得の税率は、短期(5年以下)39.63%、長期(5年超)20.315%。所有期間で倍近く変わる。
- マイホームを10年超所有して売った場合、課税長期譲渡所得6,000万円以下の部分は14.21%に軽減される(措置法31条の3)。
- 「5年」「10年」は引渡日から数えるのではなく、譲渡した年の1月1日時点で判定する。
- 6,000万円を超えても特例が消えるわけではなく、超えた部分だけが20.315%になる。
- 3,000万円特別控除(措置法35条)と併用できるため、譲渡益9,000万円程度までは軽減の効果が及ぶ。
まず前提:税率は所有期間で二段階に分かれる
個人が土地や建物を売って得た利益(譲渡所得)は、給与などとは合算せず分離して課税されます。税率は所有期間で次の二段階に分かれます。短期譲渡所得(措置法32条)は所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9%の合計39.63%。長期譲渡所得(措置法31条)は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です。復興特別所得税は所得税額に2.1%を乗じたもので、2037年分まで課されます。おおまかに「40%か20%か」と言われるのはこの数字のことです。
「5年」「10年」の数え方には独特のクセがある
ここが最も間違えやすい部分です。所有期間は、実際に引き渡した日から逆算するのではなく、譲渡した年の1月1日時点で判定します。条文上も「その年1月1日において所有期間が5年(10年)を超えるもの」と定められています。
つまり2020年3月に買った物件を2025年4月に売っても、2025年1月1日時点の所有期間は4年10か月なので短期扱い(39.63%)です。長期になるのは2026年1月1日を迎えた後、つまり2026年中に売った場合からということになります。
この数え方を「1月1日を何回またぐか」で言い換えると、5年超なら取得日の後に1月1日を6回、10年超なら11回経る必要がある、ということになります。年数だけを見て「もう10年経ったから大丈夫」と判断すると、1年ずれることがあります。
10年超のマイホームなら14.21%(措置法31条の3)
所有期間10年超という条件をクリアしたうえで、それが自分の住まい(居住用財産)だった場合、長期譲渡所得の税率がさらに引き下げられます。課税長期譲渡所得金額のうち6,000万円以下の部分について、所得税10%・復興特別所得税0.21%・住民税4%の合計14.21%。20.315%と比べると約6ポイント低く、4,000万円の譲渡益なら240万円ほどの差になります。
6,000万円を超えても特例が消えるわけではない
よくある誤解が「譲渡益が6,000万円を超えたら軽減税率は使えない」というものです。条文は6,000万円以下の部分と6,000万円を超える部分を分けて規定しており、超えた分だけが20.315%になります。特例そのものが失効するのではありません。
たとえば3,000万円特別控除を適用した後の課税長期譲渡所得金額が9,000万円だった場合、6,000万円×14.21%=852.6万円、残る3,000万円×20.315%=609.45万円、合計1,462.05万円という計算になります。全額を20.315%で計算した場合(1,828.35万円)と比べれば、366万円ほど軽くなっている計算です。譲渡益が大きい物件でも、6,000万円分の恩恵は確実に受けられます。
3,000万円特別控除との併用ができる
この特例の使い勝手を大きく左右するのが、居住用財産の3,000万円特別控除(措置法35条)と併用できる点です。譲渡益からまず3,000万円を控除し、残った金額(課税長期譲渡所得金額)に対して軽減税率を適用する順序になります。
具体的には、譲渡益が7,000万円のケースなら、7,000万円−3,000万円=4,000万円が課税対象。これは6,000万円以下なので全額14.21%となり、税額は568.4万円です。軽減税率がなければ812.6万円ですから、244万円ほどの差になります。
つまり譲渡益ベースで見れば、3,000万円+6,000万円=9,000万円あたりまでが最も有利な帯ということになります。
適用を受けるための主な要件
- 売ったのが自分の居住用の家屋(およびその敷地)であること。住まなくなった場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売った年の1月1日時点で、家屋と敷地の両方の所有期間が10年を超えていること。
- 売った年の前年・前々年にこの特例の適用を受けていないこと(実質3年に1度)。
- 特定居住用財産の買換え特例(措置法36条の2)など、他の課税繰延べの特例と重ねて受けていないこと(選択制)。
- 親子・夫婦など特別の関係にある人への譲渡でないこと。
家屋を取り壊して土地だけを売る場合は、取壊しから1年以内に譲渡契約を結ぶこと、取壊し後に貸付けなどに使っていないことといった追加の条件があります。
見落としやすいのが住宅ローン控除との関係
買換えを予定している方が特に注意したいのが、住宅ローン控除との関係です。旧居の売却で3,000万円特別控除やこの軽減税率の特例を使うと、新居について住宅ローン控除が受けられなくなる場合があります。対象となるのは、新居に住み始めた年・その前年・前々年、およびその翌年以後3年以内にこれらの特例を受けたケースです。
売却時の節税額と、新居で13年間受けられるはずだった住宅ローン控除の総額を比べると、後者のほうが大きくなることも珍しくありません。売却と購入が近い時期に重なる方は、必ず両方を並べて試算してから選択してください。
よくある質問
「10年超」はいつの時点で判定しますか?
引渡しの日ではなく、譲渡した年の1月1日時点で判定します。条文上「その年1月1日において所有期間が10年を超えるもの」と定められているため、取得日の後に1月1日を11回経ている必要があります。
譲渡益が6,000万円を超えたら軽減税率は使えませんか?
使えます。6,000万円以下の部分は14.21%、それを超える部分が20.315%となる仕組みで、特例そのものが失効するわけではありません。
3,000万円特別控除と併用できますか?
併用できます。譲渡益から3,000万円を控除した後の金額に軽減税率を適用します。ただし特定居住用財産の買換え特例とは選択制で、住宅ローン控除にも制限がかかる場合があります。
まとめ
所有期間5年・10年という区切りは、売却のタイミングを1年ずらすだけで税額が大きく変わる論点です。判定基準が「譲渡した年の1月1日」であることを押さえたうえで、マイホームであれば14.21%の軽減税率と3,000万円特別控除を組み合わせられないかを検討してみてください。なお、本記事は2026年7月時点の租税特別措置法にもとづく一般的な解説です。個別の適用可否や税額の確定は税理士・税務署にご確認ください。