不動産の仕事をしていると言うと驚かれることのひとつが、「いまだにFAXが現役」という事実です。内見の依頼も、申込書のやり取りも、この業界ではまだまだFAXが主役だったりします。
「なくならない」には理由がある
正直に言えば、私も最初は「なぜ2026年にもなってFAXなのか」と思っていました。メールのほうが速いし、記録も残る。合理的に考えれば、置き換わって当然のはずです。
でも、現場に立ち続けて見方が変わりました。FAXには「送れば、相手の事務所の機械から紙が出てくる」という確実さがあります。メールは受信箱に埋もれますが、机の上の紙は埋もれにくい。電話の合間に一枚の紙をさっと確認して、手書きで返事を書いて送り返す。忙しい現場の動き方に、FAXは意外なほど馴染んでいるんです。
長く残っている習慣を「遅れている」と切り捨てるのは簡単です。ただ、残っているものには大抵、残っているなりの理由がある。それを理解しないまま「効率化しましょう」と言っても、現場には届かない。これは省人化のシステムを売る立場になって、いっそう強く感じることです。
変えたのは手段ではなく、手前の作業だった
では私が何をしたかというと、FAXそのものをやめたのではなく、FAXを送る「手前」を自動化しました。内見依頼書なら、物件資料を渡せば送信用のPDFが自動で出来上がる仕組みを作った。宛先や日時を転記して、書式を整えて、という地味な作業が毎回数十分、確実に消えました。送信ボタンを押すのは、いまも私です。
相手の受け取り方は何も変わりません。先方の機械からは、これまで通りきちんと整った依頼書が一枚出てくるだけです。変わったのはこちらの所要時間と、転記ミスへの不安だけ。業界の習慣と戦わずに、自分の負担だけを減らす。DXというと大げさに聞こえますが、実際はこのくらいの足元の工夫の積み重ねなのだと思います。
FAXはいつか消えるかもしれません。でもそれを決めるのは現場であって、ツールを売る側ではない。明日も一枚、丁寧に送るところからです。
— 株式会社スタンドアップ 代表取締役 鳥越 雄太郎