賃貸マンションやアパートを貸す側にとって、最も大きなリスクは家賃が支払われないことです。滞納が起きたときに家賃や損害費用を回収できなくなる事態を防ぐため、賃貸借契約では保証を求めます。そして実務上、求められるのはほぼ例外なく「保証人」ではなく「連帯保証人」です。
「連帯」という言葉のとおり、連帯保証人は借主と同等の債務を負います。家賃の滞納が起きたとき、貸主は借主を飛ばして最初から連帯保証人へ連絡し、支払いを求めることができます。借主に支払能力があるかどうかは関係がありません。ここが、多くの方が想像する「万一のときの予備」というイメージとの決定的な差です。
- 連帯保証人には催告の抗弁権・検索の抗弁権がなく、「まず本人に請求してほしい」と断ることができない。
- 責任は滞納家賃だけでなく、原状回復費用、明渡し遅延の賃料相当損害金、近隣への損害賠償にも及ぶ。
- 2020年4月以降、個人が連帯保証人になる契約では極度額(上限額)の定めが必須。記載がなければ保証契約は無効。
- 連帯保証人は契約の当事者ではないため、自分の意思だけで途中降板することは基本的にできない。
- 保証人が死亡すると元本が確定し、その時点までの債務が相続される。相続放棄で免れるが全財産を手放すことになる。
- 署名前に確認すべきは、極度額・保証の範囲・契約期間と更新の扱いの三点。
保証人と連帯保証人は、別の制度です
言葉が似ているため混同されがちですが、法律上の立場は大きく異なります。通常の保証人には、貸主からの請求を一度押し返すための二つの権利があります。
| 権利 | 内容 | 連帯保証人の場合 |
|---|---|---|
| 催告の抗弁権(民法452条) | 「まず借主に請求してほしい」と主張できる | なし |
| 検索の抗弁権(民法453条) | 「借主に財産があるので、そちらから回収してほしい」と主張できる | なし |
| 分別の利益 | 保証人が複数いる場合、頭数で割った分だけ負担すればよい | なし(各自が全額を負う) |
民法454条は、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するときは、催告の抗弁も検索の抗弁もできないと定めています。つまり連帯保証人は、貸主から見れば「もう一人の借主」です。借主に資力があるかどうかを確かめる手続きを踏まなくても、いきなり請求できます。
賃貸借契約で単純保証ではなく連帯保証が使われるのは、貸主側の回収を確実にするためです。頼まれた側からすれば、「形式的なもの」ではまったくないという理解が出発点になります。
責任の範囲は、滞納家賃だけではありません
連帯保証人が負うのは「賃貸借契約から生じる借主の債務」です。実際の契約書では、この一文で広い範囲がカバーされています。典型的なものを挙げます。
| 項目 | 内容 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 滞納賃料・共益費 | 支払われなかった家賃と管理費。遅延損害金が加算される場合もある | 滞納が長引くほど累積する |
| 原状回復費用 | 借主の故意・過失や善管注意義務違反による破損、汚損の修復費 | 敷金を超えた分は請求対象 |
| 明渡し遅延の損害金 | 契約解除後も退去しない期間について、賃料相当額(契約により倍額の定めも) | 訴訟・強制執行まで進むと長期化する |
| 損害賠償 | 漏水や失火などで階下や近隣に損害を与えた場合の賠償責任 | 状況により高額化しうる |
| 残置物の処分費 | 借主が家財を残したまま行方不明になった場合の撤去・保管費用 | 契約の定めによる |
特に見落とされやすいのが、明渡し遅延の損害金です。借主が家賃を払わないまま居座り、貸主が契約解除・明渡しの訴訟を起こして解決するまでには、実務上まとまった期間がかかります。その間の賃料相当額も保証の対象となるため、「滞納2か月分だと思っていたら、解決したときには一年分近くになっていた」という事態が起こり得ます。
また、期間の定めのある建物賃貸借では、契約が更新された後の債務についても、特段の事情がない限り保証人が責任を負うと解されています。二年ごとの更新のたびに保証人の承諾が取り直されるとは限らない、という点も押さえておいてください。
2020年の民法改正で入った「極度額」を必ず確認する
ここが、いま連帯保証人を頼まれた方にとって最も重要な確認事項です。2020年4月1日施行の改正民法により、個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じないことになりました(民法465条の2)。賃貸借の保証は、将来発生する不特定の債務をまとめて保証する「根保証」にあたるため、この規定が適用されます。
極度額とは、連帯保証人が負担する上限額のことです。「賃料の24か月分」「金○○円」といった形で契約書に明記されます。国土交通省の賃貸住宅標準契約書にも、連帯保証人の極度額を記入する欄が設けられています。
- 極度額の記載があるか。空欄のまま署名を求められたら、その場で確認する。
- 金額はいくらか。家賃の何か月分にあたるかを計算し、自分が実際に払える額かを判断する。
- 保証の対象範囲はどう書かれているか。「賃貸借契約から生じる一切の債務」なら、家賃以外も含まれる。
改正前の契約では上限が定められていないものも多く、負担が青天井になり得ました。現在は上限が可視化されているぶん、判断材料が増えています。逆に言えば、極度額を見ずに署名することは、上限のわからない借金を引き受けるのと同じです。なお、この規定は個人が保証人になる場合の話であり、保証会社(法人)が保証する場合には適用されません。
借主の支払状況を確認する権利があります
連帯保証人には、状況を把握する手立ても用意されています。借主から委託を受けて保証人になった場合、請求すれば貸主は、賃料の支払状況や滞納の有無、遅延損害金を含む残額などについて情報を提供しなければなりません(民法458条の2)。
実務上、連帯保証人が事態を知るのは「すでに数か月分が滞納し、内容証明が届いたとき」であることが少なくありません。引き受けた以上は受け身で待つのではなく、心配な兆候があれば管理会社や貸主に状況を照会する。これが被害を最小限にする現実的な手段です。
自分の意思では、途中でやめられない
賃貸借契約は、あくまで貸主と借主の間の契約です。連帯保証人はその直接の当事者ではありません。そのため、一度保証契約を結んでしまうと、「もう降りたい」という保証人側の意思だけで賃貸借契約を解除したり、保証から離脱したりすることは原則としてできません。
現実的にとり得る道は、次のようなものに限られます。いずれも相手方の同意が前提です。
- 借主・貸主・新しい保証人の三者が合意して、保証人を交代する
- 更新のタイミングで、保証会社の利用に切り替えてもらう
- 借主に契約自体を解約してもらう
「関係が悪くなったからやめる」が通らないという点は、引き受ける前に理解しておく必要があります。人間関係が変わっても、保証の責任は残ります。
亡くなったとき、責任はどうなるか
連帯保証人が亡くなった場合、その地位は相続の対象になります。ただし、ここには重要な線引きがあります。個人の根保証契約では、保証人が死亡した時点で元本が確定します(民法465条の4)。つまり相続人が引き継ぐのは、死亡時点までに発生していた債務であって、その後に生じる家賃まで無制限に負い続けるわけではありません。
とはいえ、死亡時点で滞納が積み上がっていれば、その債務は相続財産の一部として相続人に承継されます。相続放棄をすれば免れますが、放棄は「保証債務だけ」を選んで捨てられる制度ではありません。預貯金、不動産、その他すべての相続財産を手放すことになります。判断期限もあるため、該当しそうな場合は早めに専門家へ相談してください。
また、貸主側から見れば、相続人に十分な支払能力があるとは限りません。実務では、相続の発生を機に、貸主の判断で相続人以外の連帯保証人を新たに立てるよう求められることがあります。
頼む側が知っておきたいこと
ここまで読んで、「そこまで重いなら親族に頼みづらい」と感じた方も多いはずです。実際、現在の賃貸市場では家賃保証会社の利用が主流で、連帯保証人を立てない契約のほうが一般的になっています。
- 保証会社を使えば、親族に上記のリスクを負わせずに契約できる
- ただし初回保証料(総賃料の30〜100%程度)と年間または更新ごとの継続料がかかる
- 物件によっては「保証会社+連帯保証人」の両方を求められる場合もある
- 収入や在留資格に不安がある場合、連帯保証人を立てることで審査が通りやすくなることはある
親族に頼む場合も、「形式的なものだから」とは言わないでください。極度額がいくらで、どこまでの債務が対象で、途中でやめられないことを伝えたうえで判断してもらう。そのほうが、結果的に関係を守ります。
私、鳥越が連帯保証人の話をするときに必ずお伝えしているのは、「頼む側も頼まれる側も、極度額の数字を口に出して確認してください」ということです。責任の重さは抽象的な説明では伝わりませんが、「家賃12万円の24か月分=288万円まで」と具体的な金額に置き換えると、双方が現実として理解できます。そのうえで無理があると感じたら、保証会社を使う選択肢を早めに検討する。契約前の数分間の確認が、後々の家族関係を守ることになると考えています。
引き受ける前チェックリスト
- 契約書に極度額の記載があるか。空欄ではないか
- 極度額は家賃の何か月分か。自分が実際に支払える額か
- 保証の対象は家賃だけか、原状回復費や損害賠償も含む書き方か
- 契約期間と、更新後も保証が続く旨の定めがあるか
- 借主の収入・勤務状況を自分は把握しているか
- 滞納が起きたとき、誰から自分へ連絡が来る運びになっているか
- 保証会社を使う選択肢は検討されたか。なぜ連帯保証人が必要なのか
- 自分に万一のことがあった場合、家族に何が残るか説明できるか
よくある質問
保証人と連帯保証人は何が違いますか?
保証人には、先に借主へ請求するよう求める催告の抗弁権と、借主の財産から回収するよう求める検索の抗弁権があります。連帯保証人にはこの二つがなく、借主に支払能力があるかどうかに関わらず、貸主から直接請求されれば応じる必要があります。賃貸借契約でほぼ全て連帯保証とされるのはこのためです。
連帯保証人が負うのは滞納家賃だけですか?
多くの契約では、賃貸借契約から生じる借主の債務全般が保証の対象です。滞納家賃のほか、借主の過失による破損の原状回復費用、契約解除後に明け渡さない期間の賃料相当損害金、共用部や近隣への損害賠償などが含まれ得ます。
連帯保証人には上限額がありますか?
2020年4月1日施行の改正民法により、個人が連帯保証人となる賃貸借契約では極度額(負担の上限額)を定めなければ保証契約は効力を生じません。契約書に極度額の記載があるか、その金額が家賃の何か月分にあたるかを、署名前に必ず確認してください。
連帯保証人が亡くなったらどうなりますか?
個人の根保証では保証人の死亡により元本が確定するため、死亡時点までに生じていた債務が相続の対象となり、その後に発生する家賃には及びません。相続放棄をすれば免れますが、預貯金や不動産を含むすべての相続財産を放棄することになります。
公式情報
まとめ
連帯保証人は、借主の予備ではなく、借主と同じ債務を負う立場です。貸主は最初から連帯保証人に請求でき、対象は滞納家賃にとどまらず、原状回復費用や明渡し遅延の損害金にも及びます。そして、自分の意思だけで抜けることはできません。
一方で、2020年の民法改正により極度額の定めが必須になったことで、引き受ける前に上限を確認できるようになりました。契約書のその一行を見て、金額を口に出し、払えるかどうかを判断する。頼む側は、その情報を隠さずに伝える。それだけで、多くのトラブルは事前に避けられます。
本記事は2026年8月18日時点の一般的な解説です。個別の契約における責任範囲は、契約書の条項、締結時期、当事者間の合意によって異なります。実際の紛争や判断については、弁護士等の専門家にご相談ください。