Column ・ 法人社宅 ・ Vol.01

役員社宅で自宅家賃の8割を会社負担にする方法

会社が契約者となる「社宅」の仕組みを使うと、自宅の家賃の多くを会社の負担にできます。「本人負担2割」の算式から、2戸貸与や水道光熱費の扱いといった実務の注意点、根拠づくりの手順まで整理します。

役員が住む自宅を会社の経費で持つ方法として、まず思いつくのは「住宅手当」かもしれません。しかし住宅手当には節税効果がなく、同じ目的なら会社が契約者となる「社宅」という仕組みを使うほうが有利になるケースが多くあります。会社が家賃を全額払い、役員本人からはごく一部だけを徴収する——この「本人負担2割」がどのような根拠で成り立つのか。算式の詳しい計算方法から、複数戸貸与や水道光熱費といった実務でつまずきやすい論点、根拠づくりに必要な固定資産評価証明書の取得方法まで、できるだけ網羅的に整理しました。

この記事の要点
  • 住宅手当(個人契約+会社が家賃補助)は給与課税の対象になり、節税効果はない。社宅化には会社が契約者となる法人契約が前提。
  • 小規模住宅に該当する場合、通達の算式で賃貸料相当額を計算でき、都心の賃貸マンションでは家賃の1〜2割程度になることが多い。
  • 小規模住宅に該当しない賃借社宅は、算式による額と会社が支払う家賃の50%のいずれか高い方が基準になるため、実務上は本人負担50%が安全ライン。
  • 床面積240㎡超や設備が著しく豪華な住宅は算式の対象外で、市場家賃を基準に評価される。
  • 社宅を複数戸貸与する場合、居住実態や業務上の合理性が薄いと家賃全額が役員給与と認定されるリスクがある。
  • 水道光熱費は原則会社の経費にできず、現物給与課税の対象になる。
  • 役員への社宅貸与は利益相反取引にあたり、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の承認決議と議事録が必要。

1. 住宅手当と社宅の違い

会社の経費で役員の住居費をサポートする方法には、大きく2つの形があります。ひとつは役員個人が賃貸借契約を結び、会社がその一部を「住宅手当」として給与に上乗せする方法です。もうひとつは、会社自体が賃貸借契約の契約者(借主)となり、役員をそこに住まわせる「社宅」の方法です。

住宅手当は運用が簡単に見えますが、税務上は単純に給与の増額とみなされます。上乗せした住宅手当の分だけ所得税・社会保険料の負担が増えるため、会社側にも役員個人側にも節税効果はありません。これに対して社宅は、会社が契約者になっているという前提があるからこそ、後述する損金化の効果を得られます。つまり「本人負担を軽くしたい」という発想の前に、まず契約者を会社に切り替えることが最初の一歩になります。

2. 賃貸料相当額の算式(小規模住宅の場合)

社宅の仕組み自体はシンプルです。会社が大家に家賃を100%支払い、役員本人からは会社が定めた使用料(社宅使用料)を毎月徴収します。このとき、本人からの徴収額が所得税基本通達36-40・36-41に定める「賃貸料相当額」以上であれば、会社が支払った家賃と本人からの徴収額の差額は、給与として課税されずに会社の損金として処理できます。逆に徴収額が賃貸料相当額に満たない場合は、不足分が役員への給与(経済的利益の供与)とみなされ、所得税・社会保険料の対象になります。

この賃貸料相当額の計算方法は住宅の規模によって扱いが分かれます。次の基準に当てはまる住宅は「小規模住宅」として、通達に定められた算式だけで賃貸料相当額を計算できます。

小規模住宅の基準(いずれか)
  • 木造など法定耐用年数30年以下の建物:床面積132㎡以下
  • RC造など法定耐用年数30年超の建物:床面積99㎡以下

都心のマンション住まいであれば、多くの場合この基準に収まります。小規模住宅に該当する場合の算式は次のとおりです。

賃貸料相当額の算式(小規模住宅)
  • 建物の固定資産税課税標準額 × 0.2%
  • + 12円 ×(その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3)
  • + 敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%

この算式のポイントは、実際の市場家賃ではなく「固定資産税課税標準額」を基準に計算する点です。課税標準額は実勢の市場価格・市場家賃よりかなり低く出るのが一般的なため、算式で計算した賃貸料相当額は、実際に会社が支払っている家賃と比べてごく小さな金額になりやすくなります。

具体的なイメージをつかむために、架空のモデルケースで計算してみます。都心のRC造・床面積50㎡の賃貸マンションを会社が家賃20万円で借り上げ、建物の固定資産税課税標準額を500万円、敷地の固定資産税課税標準額を800万円と仮定した場合の計算は次のとおりです。

モデルケースの計算例(架空の数値)
  • 建物:500万円 × 0.2% = 10,000円
  • 床面積:12円 ×(50㎡ ÷ 3.3) ≒ 182円
  • 敷地:800万円 × 0.22% = 17,600円
  • 合計(賃貸料相当額):約27,800円

この例では、家賃20万円に対して賃貸料相当額はおよそ14%、つまり家賃の1〜2割程度という水準になります。あくまで架空の数値による一般的な目安であり、実際の金額は建物・敷地の評価額や床面積によって変わります。固定資産税課税標準額は物件ごとに大きく異なるため、正確な金額は評価証明書を取得して個別に計算する必要があります。

3. 小規模住宅に該当しない場合|本人負担50%が安全ライン

床面積が小規模住宅の基準を超える住宅を、会社が第三者(大家)から借り上げて社宅として貸与する場合(賃借社宅)は、算式の使い方が変わります。この場合の賃貸料相当額は、「自社所有の場合の算式で計算した額」と「会社が実際に支払っている家賃の50%」を比較し、いずれか高い方の金額になります。

固定資産税課税標準額を基準にした算式による金額は、多くの場合、実際の家賃の50%よりも小さくなります。つまり非小規模の賃借社宅では、実務上ほとんどのケースで「家賃の50%」の方が高くなり、これが賃貸料相当額として採用されます。よく耳にする「社宅は本人負担を家賃の50%にすればよい」という話は、この非小規模住宅のケースを指していることが多く、小規模住宅の算式が使える場合にそのまま当てはめてしまうと、本来より高い負担を役員に求めてしまうことになります。逆に言えば、非小規模の賃借社宅では、本人負担を家賃の50%程度に設定しておくのが実務上の安全ラインになります。

4. 豪華社宅は算式の対象外

床面積が240㎡を超える住宅や、それ以下であってもプールや特別な内外装など設備・仕様が著しく豪華と判断される住宅は、「豪華社宅」として扱われ、これまで説明した算式による優遇の対象になりません。豪華社宅の場合の賃貸料相当額は、近隣の同種同規模の物件の賃料水準など、市場家賃(実勢賃料)を基準に評価されます。役員社宅として法人契約を検討する際は、床面積の基準だけでなく、内外装や付帯設備が「著しく豪華」と受け取られる水準になっていないかも、あらかじめ意識しておくとよいでしょう。

5. 社宅を2戸貸与できるか

「本店の近くにも部屋を持たせたい」「地方の拠点用に別の社宅も用意したい」など、役員に社宅を2戸貸与したいという相談は少なくありません。結論として、社宅の戸数そのものを禁止する法令上の規定はありません。ただし2戸目については、1戸目よりもはるかに厳しく実態を問われることになります。

確認されるのは主に次の2点です。ひとつは実際にその住宅に居住している実態があるかどうか、もうひとつは2戸目を持つことに業務上の合理性があるかどうかです。業務上の合理性としては、本店近くに住むことで職住近接を実現し、深夜・早朝の緊急対応や来客対応に備えているといった説明が典型例です。

これらの実態や合理性が乏しく、実質的にほとんど使われていない住宅は、税務上「別荘」や「保養所」と同様に扱われるリスクがあります。この場合、会社が支払っている家賃相当額の全額が、役員に対する経済的利益の供与、つまり役員給与とみなされる可能性があります。役員給与は定期同額給与などの要件を満たさない形で認定されると、会社側では損金不算入(法人税の負担が増える)となり、さらに給与としての源泉徴収も行われていなかったことになるため、源泉徴収漏れも同時に指摘される、いわば「ダブルパンチ」の税務リスクを抱えることになります。

2戸目の社宅を持つ場合は、取締役会や株主総会の議事録に、なぜその住宅が必要なのか(本店近接の職住近接、緊急対応の必要性など)という理由を具体的に記録として残しておくことが防衛策になります。あわせて、水道光熱費の使用実績や在住を示す記録など、実際に生活の実態があることを示す証拠を日常的に残しておくことも重要です。

6. 水道光熱費は会社の経費にできない

社宅の家賃部分は会社の損金にできますが、水道・電気・ガスといった光熱費や、インターネット・電話などの通信費は、原則として会社の経費にはできません。これらは入居者本人の生活費であり、会社が負担すると、その負担額がそのまま現物給与として役員側の課税対象になります。

例外的に、自宅の一部を業務のために明確に使用している場合(在宅勤務スペースなど)に、床面積比などの合理的な基準で按分した部分だけを会社の経費とする余地はあります。ただしこれはあくまで業務利用に対応する部分に限られ、按分の根拠を説明できることが前提です。実務上は、家賃部分だけを社宅制度として会社が負担し、水道光熱費・通信費は役員個人の口座から直接支払う、という運用に整理しておくのが基本になります。

7. 社内手続きの整備|社宅規程と株主総会・取締役会の承認

社宅制度を導入するにあたっては、対象者・使用料の決定方法・退去条件などを定めた社宅規程を整備しておくことが基本です。規程がないまま運用してしまうと、後から使用料の算定根拠を説明しづらくなります。

もう一点、見落とされやすいのが会社法上の手続きです。役員に社宅を貸与することは、会社が役員のために取引を行う「利益相反取引」(会社法356条1項)に該当します。そのため、株主総会(取締役会を設置している会社では取締役会)の承認決議を受け、議事録を残しておく必要があります。

この承認決議は、実際に社宅の貸与を始める前に行っておくことが原則です。議事録の日付を後からさかのぼらせる、いわゆるバックデートは厳禁です。手続きの前後関係に問題があると、社宅制度そのものの有効性が疑われる原因になりかねません。

8. 固定資産評価証明書の取得方法

賃貸料相当額の算式を使うためには、建物と敷地それぞれの固定資産税課税標準額を把握する必要があります。この数字は、固定資産評価証明書を取得することで確認できます。

まず知っておきたいのは、固定資産評価証明書は所有者本人でなくても、賃貸借契約の借主(借家人)であれば取得できるという点です。役員社宅の場合、借主は会社になりますので、会社として証明書を請求すれば問題ありません。

東京23区内の物件であれば、窓口であればどの都税事務所でも取得できます。窓口に行く時間が取りにくい場合は、郵送でも請求できます。郵送請求の手順は次のとおりです。

郵送請求の手順(東京23区)
  • ①宛先 〒112-8787 東京都文京区春日1-16-21 都税証明郵送受付センター
  • ②同封物 固定資産証明・閲覧申請書(東京都主税局ホームページの様式を使用)、賃貸借契約書のコピー(賃料額がわかる部分のコピーで可)、申請者の本人確認書類のコピー、定額小為替(評価証明1件目400円、2件目以降は同一区内・同一名義人につき100円。ゆうちょ銀行の窓口で購入でき、有効期限は6ヶ月)、切手を貼った返信用封筒
  • ③所要期間 発送から証明書が届くまで、おおむね1週間〜10日が目安

固定資産の評価替えは3年に1度のタイミングで行われます。つまり評価証明書は毎年取り直す必要はなく、一度取得しておけば、次の評価替えまでの数年間は同じ内容で使い回せます。決算期や役員報酬の見直しの前に、余裕を持って請求しておくとよいでしょう。

9. 毎月の運用と根拠資料の保存

社宅規程に沿って算出した社宅使用料は、毎月の役員報酬(役員給与)から天引きする形で徴収するのが一般的です。銀行振込や現金でのやり取りではなく、給与から天引きすることで、継続して徴収している実態を明確に残すことができます。

あわせて、賃貸料相当額の計算書(算式に使った固定資産税課税標準額と計算過程を記したもの)と、その根拠になる固定資産評価証明書は、必ず保存しておきます。「本人からの徴収額(社宅使用料)が賃貸料相当額以上になっている」ことを示す一連の資料になるため、税務調査などの場面でも重要な根拠資料になります。

10. よくある質問

個人契約のまま会社が家賃の半分を払うのはだめ?

それは「住宅手当」に近い扱いになり、会社が補助した金額は給与とみなされ、所得税・社会保険料の対象になります。社宅として差額を会社の損金にする効果を得るには、契約者が会社であることが前提になります。

本人負担はいくらに設定すべき?

小規模住宅に該当する場合は算式で計算した賃貸料相当額以上、該当しない場合は算式による額と会社が支払う家賃の50%のいずれか高い額以上を徴収する必要があります。実務上の目安として、小規模住宅は家賃の1〜2割程度、非小規模の賃借社宅は家賃の50%程度が安全ラインになることが多いです。

社長の社宅を2つ持てる?

戸数そのものを禁止する規定はありませんが、2戸目は実際に居住している実態と、業務上の合理性(本店近接の職住近接、深夜早朝の業務対応など)が問われます。実態や合理性が乏しいと、別荘・保養所と同様に扱われ、家賃全額が役員給与とみなされるリスクがあります。

水道光熱費も会社持ちにできる?

原則できません。会社が負担すると、その負担額が現物給与として課税対象になります。自宅の一部を業務に使っている場合に床面積比などで合理的に按分する例外はありますが、実務では家賃は社宅制度、水道光熱費は役員個人の口座から直接支払うのが基本です。

評価証明書は大家しか取れない?

いいえ、賃貸借契約の借主(借家人)であれば取得できます。役員社宅の場合、借主は会社になるため、会社として請求できます。東京23区であれば郵送での請求も可能です。

敷金・礼金・更新料の扱いは?

契約形態や個別の事情によって判断が分かれる部分があります。社宅規程に取り扱いを明記したうえで、具体的な処理は税理士に確認することをおすすめします。

まとめ

役員社宅の本人負担が家賃の1〜2割程度に収まりやすいのは、賃貸料相当額を市場家賃ではなく固定資産税課税標準額を基準にした算式で計算するためです。一方で、小規模住宅の基準を超える住宅や、複数戸の貸与、水道光熱費の扱いなど、算式だけでは判断できない論点も少なくありません。会社が契約者になっていること、算式の根拠となる固定資産評価証明書を取得・保存していること、社宅規程と株主総会・取締役会の承認決議が整っていることの3点を土台に、実態を伴った運用を続けることが、社宅制度を安全に活用するための基本になります。本記事は2026年7月時点の情報に基づいて整理したものです。制度の適用や賃貸料相当額の具体的な算定は個々の状況によって異なるため、実際の導入にあたっては税理士にご確認ください。

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