役員が住む自宅を会社の経費で持つ方法として、まず思いつくのは「住宅手当」かもしれません。住宅手当と社宅では税務上の扱いが異なり、会社が契約者となる「社宅」のほうが有利に整理できるケースがあります。ただし、どの程度を会社負担にできるかは物件の規模、契約形態、役員側の負担額、社内手続き、実際の利用状況によって変わります。この記事では、いわゆる「本人負担2割」の話がどの場面で成り立ち得るのか、複数戸貸与や水道光熱費で注意したい点、根拠づくりに必要な固定資産評価証明書の取得方法を整理します。
この記事は一般的な制度整理であり、個別案件の税務・会社法上の適否を判断するものではありません。実際に導入する場合は、物件資料・契約書・役員報酬・社内規程をそろえたうえで、税理士や司法書士などの専門家に確認してください。
- 住宅手当(個人契約+会社が家賃補助)は給与課税の対象になりやすく、社宅と同じ扱いにはならない。社宅として整理するには、会社が契約者となる法人契約が基本。
- 小規模住宅に該当する場合、通達の算式で賃貸料相当額を計算でき、物件によっては家賃の1〜2割程度になる例もある。
- 小規模住宅に該当しない賃借社宅は、算式による額と会社が支払う家賃の50%のいずれか高い方が基準になるため、実務上は本人負担50%が目安になることが多い。
- 床面積240㎡超や設備が著しく豪華な住宅は、算式の対象外として市場家賃を基準に評価される可能性がある。
- 社宅を複数戸貸与する場合、居住実態や業務上の合理性が薄いと、家賃相当額が役員給与と認定されるリスクが高まる。
- 水道光熱費は原則として本人負担に整理されることが多く、会社負担にすると現物給与課税の対象になり得る。
- 役員への社宅貸与は利益相反取引に該当し得るため、会社の機関設計や取引条件に応じて承認決議・議事録整備の要否を確認する。
1. 住宅手当と社宅の違い
会社の経費で役員の住居費をサポートする方法には、大きく2つの形があります。ひとつは役員個人が賃貸借契約を結び、会社がその一部を「住宅手当」として給与に上乗せする方法です。もうひとつは、会社自体が賃貸借契約の契約者(借主)となり、役員をそこに住まわせる「社宅」の方法です。
住宅手当は運用が簡単に見えますが、税務上は給与の増額として扱われやすく、所得税や社会保険料の負担に影響することがあります。これに対して社宅は、会社が契約者になっているという前提があるからこそ、後述する賃貸料相当額のルールを使って整理できる余地があります。つまり「本人負担を軽くしたい」という発想の前に、まず契約者や契約内容を会社側で整えることが最初の一歩になります。
2. 賃貸料相当額の算式(小規模住宅の場合)
社宅の仕組み自体はシンプルです。会社が大家に家賃を100%支払い、役員本人からは会社が定めた使用料(社宅使用料)を毎月徴収します。このとき、本人からの徴収額が所得税基本通達36-40・36-41に定める「賃貸料相当額」以上であれば、会社が支払った家賃と本人からの徴収額の差額は、給与課税の対象外として整理しやすくなります。逆に徴収額が賃貸料相当額に満たない場合は、不足分が役員への給与(経済的利益の供与)とみなされ、所得税・社会保険料の対象になり得ます。
この賃貸料相当額の計算方法は住宅の規模によって扱いが分かれます。次の基準に当てはまる住宅は「小規模住宅」として、通達に定められた算式を基本に賃貸料相当額を計算します。
- 木造など法定耐用年数30年以下の建物:床面積132㎡以下
- RC造など法定耐用年数30年超の建物:床面積99㎡以下
都心の一般的なマンションでも、この基準に収まるケースがあります。小規模住宅に該当する場合の算式は次のとおりです。
- 建物の固定資産税課税標準額 × 0.2%
- + 12円 ×(その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3)
- + 敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
この算式のポイントは、実際の市場家賃ではなく「固定資産税課税標準額」を基準に計算する点です。課税標準額は実勢の市場価格・市場家賃より低く出ることが多いため、算式で計算した賃貸料相当額は、実際に会社が支払っている家賃より小さな金額になりやすい傾向があります。
具体的なイメージをつかむために、架空のモデルケースで計算してみます。都心のRC造・床面積50㎡の賃貸マンションを会社が家賃20万円で借り上げ、建物の固定資産税課税標準額を500万円、敷地の固定資産税課税標準額を800万円と仮定した場合の計算は次のとおりです。
- 建物:500万円 × 0.2% = 10,000円
- 床面積:12円 ×(50㎡ ÷ 3.3) ≒ 182円
- 敷地:800万円 × 0.22% = 17,600円
- 合計(賃貸料相当額):約27,800円
この架空例では、家賃20万円に対して賃貸料相当額はおよそ14%です。ただし、これは前提を置いたモデル計算にすぎません。実際の金額は建物・敷地の評価額や床面積によって変わるため、固定資産評価証明書を取得し、個別に計算する必要があります。
3. 小規模住宅に該当しない場合|本人負担50%が目安になる場面
床面積が小規模住宅の基準を超える住宅を、会社が第三者(大家)から借り上げて社宅として貸与する場合(賃借社宅)は、算式の使い方が変わります。この場合の賃貸料相当額は、「自社所有の場合の算式で計算した額」と「会社が実際に支払っている家賃の50%」を比較し、いずれか高い方の金額で判定します。
固定資産税課税標準額を基準にした算式による金額は、実際の家賃の50%よりも小さくなることが多いため、非小規模の賃借社宅では「家賃の50%」が実務上の目安になりやすいです。よく耳にする「社宅は本人負担を家賃の50%にすればよい」という話は、この非小規模住宅のケースを指していることがあります。小規模住宅の算式が使える場合にそのまま当てはめると、本来より高い負担を役員に求めてしまう可能性があるため、まず小規模住宅に該当するかを確認しましょう。
4. 豪華社宅は算式の対象外
床面積が240㎡を超える住宅や、それ以下であってもプールや特別な内外装など設備・仕様が著しく豪華と判断される住宅は、「豪華社宅」として扱われ、これまで説明した算式による優遇の対象になりません。豪華社宅の場合の賃貸料相当額は、近隣の同種同規模の物件の賃料水準など、市場家賃(実勢賃料)を基準に評価されます。役員社宅として法人契約を検討する際は、床面積の基準だけでなく、内外装や付帯設備が「著しく豪華」と受け取られる水準になっていないかも、あらかじめ意識しておくとよいでしょう。
5. 社宅を2戸貸与できるか
「本店の近くにも部屋を持たせたい」「地方の拠点用に別の社宅も用意したい」など、役員に社宅を2戸貸与したいという相談は少なくありません。結論として、社宅の戸数そのものを禁止する法令上の規定はありません。ただし2戸目については、1戸目以上に実態と必要性を丁寧に説明できる状態にしておく必要があります。
確認されるのは主に次の2点です。ひとつは実際にその住宅に居住している実態があるかどうか、もうひとつは2戸目を持つことに業務上の合理性があるかどうかです。業務上の合理性としては、本店近くに住むことで職住近接を実現し、深夜・早朝の緊急対応や来客対応に備えているといった説明が典型例です。
これらの実態や合理性が乏しく、実質的にほとんど使われていない住宅は、税務上「別荘」や「保養所」と同様に扱われるリスクがあります。この場合、会社が支払っている家賃相当額の全額が、役員に対する経済的利益の供与、つまり役員給与とみなされる可能性があります。役員給与は定期同額給与などの要件を満たさない形で認定されると、会社側では損金不算入(法人税の負担が増える)となり、さらに給与としての源泉徴収も行われていなかったことになるため、源泉徴収漏れも同時に指摘される、複数の税務リスクを同時に抱えることになります。
2戸目の社宅を持つ場合は、取締役会や株主総会の議事録に、なぜその住宅が必要なのか(本店近接の職住近接、緊急対応の必要性など)という理由を具体的に記録として残しておくことが防衛策になります。あわせて、水道光熱費の使用実績や在住を示す記録など、実際に生活の実態があることを示す証拠を日常的に残しておくことも重要です。
6. 水道光熱費を会社負担にする場合の注意点
社宅の家賃部分は、賃貸料相当額のルールに沿って整理できる余地があります。一方で、水道・電気・ガスといった光熱費や、インターネット・電話などの通信費は、入居者本人の生活費と見られやすい費目です。会社が負担すると、その負担額が現物給与として役員側の課税対象になる可能性があります。
例外的に、自宅の一部を業務のために明確に使用している場合(在宅勤務スペースなど)に、床面積比などの合理的な基準で按分した部分だけを会社の経費とする余地はあります。ただしこれはあくまで業務利用に対応する部分に限られ、按分の根拠を説明できることが前提です。実務上は、家賃部分を社宅制度として整理し、水道光熱費・通信費は役員個人の口座から直接支払う運用にしておくと、説明しやすくなります。
7. 社内手続きの整備|社宅規程と株主総会・取締役会の承認
社宅制度を導入するにあたっては、対象者・使用料の決定方法・退去条件などを定めた社宅規程を整備しておくことが基本です。規程がないまま運用してしまうと、後から使用料の算定根拠を説明しづらくなります。
もう一点、見落とされやすいのが会社法上の手続きです。役員に社宅を貸与することは、契約内容や会社の機関設計によって、会社が役員のために取引を行う「利益相反取引」(会社法356条1項)の論点になり得ます。そのため、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認決議や議事録整備が必要かどうかを、事前に確認しておくのが安全です。
承認決議が必要な場合は、実際に社宅の貸与を始める前に行っておくのが原則です。議事録の日付を後からさかのぼらせる、いわゆるバックデートは避けるべきです。手続きの前後関係に問題があると、社宅制度そのものの有効性を説明しづらくなるおそれがあります。
8. 固定資産評価証明書の取得方法
賃貸料相当額の算式を使うには、建物と敷地それぞれの固定資産税課税標準額を把握する必要があります。この数字は、固定資産評価証明書などで確認します。
まず知っておきたいのは、固定資産評価証明書は所有者本人でなくても、賃貸借契約の借主(借家人)であれば取得できる場合があるという点です。役員社宅の場合、借主が会社であれば、会社として請求できる余地があります。ただし、契約書類や申請書類の要件は自治体ごとに確認が必要です。
東京23区内の物件であれば、23区内の都税事務所窓口で申請でき、郵送申請も用意されています。郵送請求の手順は次のとおりです。
- ①宛先 〒112-8787 東京都文京区春日1-16-21 都税証明郵送受付センター
- ②同封物 固定資産証明・閲覧申請書(東京都主税局ホームページの様式を使用)、賃貸借契約書のコピー(賃料額がわかる部分のコピーで可)、申請者の本人確認書類のコピー、定額小為替(評価証明1件目400円、2件目以降は同一区内・同一名義人につき100円。ゆうちょ銀行の窓口で購入でき、有効期限は6ヶ月)、切手を貼った返信用封筒
- ③所要期間 発送から証明書が届くまで、おおむね1週間〜10日が目安
固定資産の評価替えは原則として3年に1度のタイミングで行われます。ただし、年度や物件の状況によって確認すべき資料が変わることもあるため、毎期の運用時には手元の評価額が現在の判定に使えるかを確認しましょう。決算期や役員報酬の見直しの前に、余裕を持って請求しておくと安心です。
9. 毎月の運用と根拠資料の保存
社宅規程に沿って算出した社宅使用料は、毎月の役員報酬(役員給与)から天引きする形で徴収する例が多くあります。給与から天引きすることで、継続して徴収している実態を残しやすくなります。
あわせて、賃貸料相当額の計算書(算式に使った固定資産税課税標準額と計算過程を記したもの)と、その根拠になる固定資産評価証明書は、保存しておきます。「本人からの徴収額(社宅使用料)が賃貸料相当額以上になっている」ことを示す一連の資料になるため、税務調査などの場面でも重要な根拠資料になります。
10. よくある質問
個人契約のまま会社が家賃の半分を払うのはだめ?
それは「住宅手当」に近い扱いになりやすく、会社が補助した金額は給与として所得税・社会保険料の対象になる可能性があります。社宅として整理するには、契約者が会社であることが基本的な前提になります。
本人負担はいくらに設定すべき?
小規模住宅に該当する場合は算式で計算した賃貸料相当額以上、該当しない場合は算式による額と会社が支払う家賃の50%のいずれか高い額以上を徴収するのが基本です。小規模住宅では家賃の1〜2割程度になる例もありますが、実際には物件ごとの評価額で計算してください。
社長の社宅を2つ持てる?
戸数そのものを禁止する規定は見当たりませんが、2戸目は実際に居住している実態と、業務上の合理性(本店近接の職住近接、深夜早朝の業務対応など)が問われやすくなります。実態や合理性が乏しいと、家賃相当額が役員給与とみなされるリスクがあります。
水道光熱費も会社持ちにできる?
本人の生活費と見られやすいため、会社負担にすると現物給与として課税対象になる可能性があります。自宅の一部を業務に使っている場合に床面積比などで合理的に按分する余地はありますが、実務では家賃は社宅制度、水道光熱費は役員個人の口座から直接支払う運用が説明しやすいです。
評価証明書は大家しか取れない?
賃貸借契約の借主(借家人)であれば取得できる場合があります。役員社宅で借主が会社の場合、会社として請求できる余地があります。東京23区では郵送申請も用意されています。
敷金・礼金・更新料の扱いは?
契約形態や個別の事情によって判断が分かれる部分があります。社宅規程に取り扱いを明記したうえで、具体的な処理は税理士に確認することをおすすめします。
まとめ
役員社宅の本人負担が家賃の1〜2割程度に収まりやすいのは、賃貸料相当額を市場家賃ではなく固定資産税課税標準額を基準にした算式で計算するためです。一方で、小規模住宅の基準を超える住宅や、複数戸の貸与、水道光熱費の扱いなど、算式だけでは判断できない論点も少なくありません。会社が契約者になっていること、算式の根拠となる固定資産評価証明書を取得・保存していること、社宅規程と株主総会・取締役会の承認決議が整っていることの3点を土台に、実態を伴った運用を続けることが、社宅制度を安全に活用するための基本になります。本記事は2026年8月時点の情報に基づいて整理したものです。制度の適用や賃貸料相当額の具体的な算定は個々の状況によって異なるため、実際の導入にあたっては税理士にご確認ください。